返回首页
当前位置: 主页 > 日语考试 >

日语文学作品赏析:《土神ときつね》

时间:2020-04-01 11:03  
核心提示:(一) 一本木の野原の、北のはずれに、少し小高く盛もりあがった所がありました。いのころぐさがいっぱいに生え、そのまん中には一本の奇麗きれいな女の樺かばの木がありました

  (一)

  一本木の野原の、北のはずれに、少し小高く盛もりあがった所がありました。いのころぐさがいっぱいに生え、そのまん中には一本の奇麗きれいな女の樺かばの木がありました。

  それはそんなに大きくはありませんでしたが幹はてかてか黒く光り、枝えだは美しく伸のびて、五月には白い花を雲のようにつけ、秋は黄金きんや紅あかやいろいろの葉を降らせました。

  ですから渡わたり鳥のかっこうや百舌もずも、又また小さなみそさざいや目白もみんなこの木に停とまりました。ただもしも若い鷹たかなどが来ているときは小さな鳥は遠くからそれを見付けて決して近くへ寄りませんでした。

  この木に二人の友達がありました。一人は丁度、五百歩ばかり離はなれたぐちゃぐちゃの谷地やちの中に住んでいる土神で一人はいつも野原の南の方からやって来る茶いろの狐きつねだったのです。

  樺の木はどちらかと云いえば狐の方がすきでした。なぜなら土神の方は神という名こそついてはいましたがごく乱暴で髪かみもぼろぼろの木綿糸の束たばのよう眼めも赤くきものだってまるでわかめに似、いつもはだしで爪つめも黒く長いのでした。ところが狐の方は大へんに上品な風で滅多めったに人を怒おこらせたり気にさわるようなことをしなかったのです。

  ただもしよくよくこの二人をくらべて見たら土神の方は正直で狐は少し不正直だったかも知れません。

  (二)

  夏のはじめのある晩でした。樺には新らしい柔やわらかな葉がいっぱいについていいかおりがそこら中いっぱい、空にはもう天あまの川がわがしらしらと渡り星はいちめんふるえたりゆれたり灯ともったり消えたりしていました。

  その下を狐が詩集をもって遊びに行ったのでした。仕立おろしの紺こんの背広を着、赤革あかがわの靴くつもキッキッと鳴ったのです。

  「実にしずかな晩ですねえ。」

  「ええ。」樺の木はそっと返事をしました。

  「蝎さそりぼしが向うを這はっていますね。あの赤い大きなやつを昔むかしは支那しなでは火かと云ったんですよ。」

  「火星とはちがうんでしょうか。」

  「火星とはちがいますよ。火星は惑星わくせいですね、ところがあいつは立派な恒星こうせいなんです。」

  「惑星、恒星ってどういうんですの。」

  「惑星というのはですね、自分で光らないやつです。つまりほかから光を受けてやっと光るように見えるんです。恒星の方は自分で光るやつなんです。お日さまなんかは勿論もちろん恒星ですね。あんなに大きくてまぶしいんですがもし途方とほうもない遠くから見たらやっぱり小さな星に見えるんでしょうね。」

  「まあ、お日さまも星のうちだったんですわね。そうして見ると空にはずいぶん沢山たくさんのお日さまが、あら、お星さまが、あらやっぱり変だわ、お日さまがあるんですね。」

  狐は鷹揚おうように笑いました。

  「まあそうです。」

  「お星さまにはどうしてああ赤いのや黄のや緑のやあるんでしょうね。」

  狐は又鷹揚に笑って腕うでを高く組みました。詩集はぷらぷらしましたがなかなかそれで落ちませんでした。

  「星に橙だいだいや青やいろいろある訳ですか。それは斯こうです。全体星というものははじめはぼんやりした雲のようなもんだったんです。いまの空にも沢山あります。たとえばアンドロメダにもオリオンにも猟犬座りょうけんざにもみんなあります。猟犬座のは渦巻うずまきです。それから環状星雲リングネビュラというのもあります。魚の口の形ですから魚口星雲フィッシュマウスネビュラとも云いますね。そんなのが今の空にも沢山あるんです。」

  「まあ、あたしいつか見たいわ。魚の口の形の星だなんてまあどんなに立派でしょう。」

  「それは立派ですよ。僕ぼく水沢の天文台で見ましたがね。」

  「まあ、あたしも見たいわ。」

  「見せてあげましょう。僕実は望遠鏡を独乙ドイツのツァイスに注文してあるんです。来年の春までには来ますから来たらすぐ見せてあげましょう。」狐は思わず斯う云ってしまいました。そしてすぐ考えたのです。ああ僕はたった一人のお友達にまたつい偽うそを云ってしまった。ああ僕はほんとうにだめなやつだ。けれども決して悪い気で云ったんじゃない。よろこばせようと思って云ったんだ。あとですっかり本当のことを云ってしまおう、狐はしばらくしんとしながら斯う考えていたのでした。樺の木はそんなことも知らないでよろこんで言いました。

  「まあうれしい。あなた本当にいつでも親切だわ。」

  狐は少し悄気しょげながら答えました。

  「ええ、そして僕はあなたの為ためならばほかのどんなことでもやりますよ。この詩集、ごらんなさいませんか。ハイネという人のですよ。翻訳ほんやくですけれども仲々よくできてるんです。」

  「まあ、お借りしていいんでしょうかしら。」

  「構いませんとも。どうかゆっくりごらんなすって。じゃ僕もう失礼します。はてな、何か云い残したことがあるようだ。」

  「お星さまのいろのことですわ。」

  「ああそうそう、だけどそれは今度にしましょう。僕あんまり永くお邪魔じゃましちゃいけないから。」

  「あら、いいんですよ。」

  「僕又来ますから、じゃさよなら。本はあげてきます。じゃ、さよなら。」狐はいそがしく帰って行きました。そして樺の木はその時吹ふいて来た南風にざわざわ葉を鳴らしながら狐の置いて行った詩集をとりあげて天の川やそらいちめんの星から来る微かすかなあかりにすかして頁ページを繰くりました。そのハイネの詩集にはロウレライやさまざま美しい歌がいっぱいにあったのです。そして樺の木は一晩中よみ続けました。ただその野原の三時すぎ東から金牛宮きんぎゅうきゅうののぼるころ少しとろとろしただけでした。

  夜があけました。太陽がのぼりました。

  草には露つゆがきらめき花はみな力いっぱい咲きました。

  その東北の方から熔とけた銅の汁しるをからだ中に被かぶったように朝日をいっぱいに浴びて土神がゆっくりゆっくりやって来ました。いかにも分別くさそうに腕を拱こまねきながらゆっくりゆっくりやって来たのでした。